sugadairo.com『スガダイローの肖像』

『ジャズ批評』連載「新しい才能を求める旅」(2006年6月号)

(『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II VERSUS』レヴュー)
■「vs」の様子をCDとDVDで!
 もうあれから1年半も経過したのか…。現代に息づくジャズをすべて新録で捉えたオムニバスアルバム『BOYCOTT RHYTHM MACHINE(ボイコット・リズム・マシーン)』の発売は、オルタナティブ・ジャズという世界の輪郭をくっきりとさせ、メインストリームではないが興味深い活動を行っているアーティストの存在を広く知らしめた。渋さ知らズ、デート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン、ROVOなどの演奏が、あの扁平なディスクの中に渦を巻いていた。ちょっと気が遠くなるような密度の高さをもったCDの登場であった。発売されたのは、2004年も終わろうとしていた頃のことだった。
 そして今年7月20日、その続編となる『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II VERSUS』が満を持して登場する。今回の特徴は、タイトルにもあるようにVERSUS(ヴァーサス)、つまり対戦させることにある。オルタナティブ・ジャズのアーティストと、他ジャンルの若いミュージシャンとがセッションし、互いの持ち味をぶつけ合い、音楽として昇華させるという試みだ。  主なセッションを紹介しよう。ピアノ2台のみによるアンサンブルを聴かせるのは、テクノ、ミニマル、ロック、ポップスなどジャンルを超越した活動を展開している高木正勝とジャズピアニスト南博。アボリジニが使う木管楽器、ディジュリドゥーの日本での第一人者、GOMA da DIDGERIDOO(ゴマ・ダ・ディジュリドゥー)と対するのは、渋さ知らズのダンドリスト、不破大輔。電子音楽に基づき、ヒップホップやジャズの要素も雑食的に取り込む半野喜弘が従えるバンドと、ほぼサックス1本で対峙する菊地成孔。他、DJ対ツインドラム、ラップトップPC対シタール&タブラ、ラップ対ドラム&パーカッションなど全7トラックを収録。最初のトラックの収録が2005年の10月3日、最後は本年の4月26日。約6カ月にわたるセッションの記録である。さらに、今回はCDの他、演奏シーンや出演アーティストへのインタビューを映像で納めたDVDも付属。単にセッションを捉えているわけではなく、しっかりとした演出がなされていることも目が離せない。プロジェクターによる映像の投影、視聴覚開発研究所 錦瓊(きんけい)が手がけるミラーボールでの演出、また前述のGOMA対不破のセッション会場として選ばれたのは都内某所の寺院、といった具合だ。あまりの内容の濃さとプロデューサーである清宮氏の情熱の深さに舌を巻く。
■ピアノとギター。激しい応酬の12分
 さて、この連載でも紹介したフリージャズピアニスト、スガダイローもこのセッションに参加している。ヴァーサスする相手は、ギタリストAxSxE(アセ)。プログレッシブであり、サイケデリックでもあり、ハードコアでもあるバンド、NATSUMENの中心メンバー。混沌とした楽器だけのバンドサウンドは高く評価されており、ロック系の夏フェスティバルにはなくてはならない存在である。
 二人がセッション会場である六本木のクラブ、スーパーデラックスに集合したのは、昨年の11月21日。筆者は当日の夜、この連載で紹介したユニット、ショーロ・アズーのインタビューを表参道で行い、終了後会場に駆けつけ、収録の一部に立ち会うことができた。
 緊張感に満ちた、と言えば陳腐かも知れない。しかし、たった2人のアーティストから吐き出される音は火の玉となり、会場に充満し、壁に当たっては跳ね返る。会場はひりひりと熱い空間に変化していったのだ。歪んだギターに暴風雨のごとく降り注ぐピアノの音粒。AxSxEが前屈したり、のけぞったりすれば、スガダイローは肘打ちの連打で応酬する12分22秒。激しい音の中に潜む沈黙、沈黙から立ち上がってくる激しさ。それが交互に繰り返し現れるのだ。  原稿執筆にあたり、二人のインタビューをノーカットで収録した映像を清宮氏から借りることができた(本編のDVDではそれらから編集されたものが使用される)。スガダイローは故郷である鎌倉の海岸やカフェで、AxSxEは現在自宅がある戸越の、とある公園にて、それぞれ別々にインタビューに答えている。話題は当日のセッションの回想にはじまり、自身の音楽観や世界観にまで及んでいる。
■テクニックではなく「人間」を出す
 インタビューはお互いの印象を話すことろから始まる。スガダイローの印象は「グレイト! 難しい演奏をしていても時折見せる笑顔がナイスガイですね」。また、DVD本編にも少し登場するスガのバンド、リアルブルー(スガのピアノに加えてベース2本、サックス、トロンボーンなど大所帯)ともAxSxEは当日セッションをしたのだが「音が塊なところが良いですね。一見、カオティックなのですが、その響きが実に美しい。メチャメチャ好みです」という。
 対してスガは「真面目な人でしたね。ただ、セッションする相手と合うか、合わないか、は関係ない。その場に一緒に存在することが大切だと思います」。現場に2人で存在し、互いの楽器を鳴らすこと。リハーサルや打ち合わせはしない、というのがこのアルバム全体を通してのコンセプトである。しかし、主催者がそれを敢えて設定しなくとも、この2人は初対面でテンションの高いセッションを繰り広げたことだろう。セッションに挑む際、構成やメロディーなどは、毛頭考えず、「自分という人間を見せればいいかな、と思っていた」とはAxSxEの言葉である。
「マーシャル(ギターアンプ)じゃないと弾けないし、マーシャル背負ってなんぼ、ですから」というAxSxEだが、「AxSxEさんのギターは、決してうるさくない。音がデカいのとうるさいのは違う。うるさい人とはセッションできませんね」とスガ。
 セッション中はお互い目を合わせることがなかった2人。AxSxEは「あらかじめ決めておいた旋律に音を置きにいくな、そうすることは敵やと思ってます。脳の汗や心の汗をかいて、演奏中に真っ白になる瞬間がないとあかん」。予定調和やアイコンタクトで着地点を探ることは一切排除した結果、誕生したこの場限りの音楽。スガも同じだ。「出だしはAxSxEさんの感じをもらって弾き始めたんだけど、あとはデタラメ(笑)」。以前のインタビューでもスガは「他の演奏者が発する音を聴かない」という自身の主義を語っているのだが、それはここでも貫かれている。「やりたいことしかやらない。演奏中、人に合わせていても感謝されないということや、人に合わせることに向いてないと最近気付いたんです。自分が好きなことをやっている時にこそ、人は喜んでくれる、と」。
「今、思い返してもあの場面でこうしておけば、と振り返ることはどうでも良いこと。スガさんのピアノを聴きながら、ギターをわざと弾かない、という演奏もやってみた。ただ、ギターは最近練習してなかったので、そのツケが回って来たと思うところもありましたね(笑)。そのおかげで、ひょっとしたら自分の引き出しの20%くらいしか、発揮できてないかも知れません。でも、最終的に、ノウハウやテクニックが出せなくても、人間出せたからいいかな。満足してます」。
■フクロオオカミとオオカミ?
「自分は奈良生まれで、スガさんは鎌倉生まれですよね。2人の持つ音楽の重なった部分。ほら、昔数学で勉強した円と円とが重なる部分…」というのは、「セッションした曲に名前をつけるとしたら?」という問いに対してのAxSxEの答え。スガは「接点。もっと言うならオーストラリアに生息するフクロオオカミとオオカミ、かな。もともとは同じ種類だったものが別々に進化して、今に至っているイメージ。持っている武器が同じで進化の仕方が違うような」と、それぞれ互いの突出した部分を敏感に嗅ぎ分け、尊敬し合っているようだ。別々の日時、別々の場所で収められたインタビューで、しかも演奏している楽器も違うにも関わらず、だ。
 AxSxEとスガダイローの顔合わせは、現在のところ、このたった一回。しかし、音楽を通してミュージシャン同士の魂が大きく揺り動かされ、覚醒していく様をCDやDVDを通して我々は体験することができるのだ。『BOYCOTT RHYTHM MACHINE II VERSUS』は、その意味でまぎれもなくドキュメンタリー作品なのである。
(中林 直樹)
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